『ハリネズミの願い』感想 私たちの不安
ある日、ハリネズミは窓辺に座ってどうぶつたちのことを考えながら、ふと「だれかを家に招待しよう」と思いつく。そこで手紙を書くことにした。
親愛なるどうぶつたちへ
ぼくの家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します。
でも、だれも来なくてもだいじょうぶです。
★本屋大賞 翻訳小説部門 受賞
★キノベス!2017 第2位 (紀伊國屋書店スタッフのおすすめ本ランキング)
大人気~。
で、なんでこんなに話題になっているのか、考えてみた。
全然サラッと読めない
まず、表紙のハリネズミくんがとってもかわいい。物憂げな表情でこちらを見つめている。手に取ってパラパラめくると、いくつかのさし絵がある。どれもかわいい。イラストレーター、祖敷大輔さんによる。
「かわいいし、文章も読みやすそう」と思って読み始める人も多いだろう。
私もそうだった。
だけど読み進められない。きらいじゃないのに、続きを読む気にならない。
なぜ?
不安を描いた作品
理由は簡単。
この作品は、ハリネズミが抱く“不安”だけを描いているから。
ハリネズミくんがアレコレ考えて、想像して、落ち込んで、気を取り直して、でもまた考えて、想像して、落ち込んで、その繰り返し。
ものごとが一向に進まない。
手紙を書いたものの、だれにも出さない。
「ちょっと待てよ。えーっと、カタツムリとカメはどうやって家まで来るかなぁ。サイが来たらどうしようか、クマが来たら、ゾウが来たら、いや魚たちだって来るだろう、水を用意して、ケーキを用意して、あ、でも・・・」
心が抱く“不安”をときにかわいらしくユーモラスに、または哲学的に、ものすごくシビアに、とことん書き出した作品だ。
だから、読んでいると心がひっかかって、でもそれは気分の良いものではないからサラッと読み進められない。不安にはキリがないことを、からだは知っている。
共感したり、呆れたりする自分
たいていの人は、ハリネズミくんほどには不安を抱かないだろう。
さっきも書いたけど、不安にはキリがない。
いざ試してみたら、なんとかなるもの。想像とは違うことが起こるっていう現実も知っている。それに、アレコレ考える時間がそもそもなかったりする。
それでも、不安は誰でも抱く。
ハリネズミくんは1人でいる時間が多いから、不安を好き勝手に遊ばせる。
だから不安がどんどん大きくなる。
そんなハリネズミくんに共感し、呆れ、いとしく思う。それって、
自分の中のハリネズミくん(=不安のかたまり)との接し方と同じなのではないか。
『ハリネズミの願い』を読んで「あー、面白かった」という読後感はない。
これは、自分の中のハリネズミくんに気付くための物語。
気付き、いとしく思うための物語。
だとしたら、誰が読んでも救われる一冊だと思う。