通りすがり

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窓を開けると、雨に打たれる赤い自転車が見える。

買ったばかりの頃は、雲行きがあやしくなると慌ててカバーをかけていた。一度怠ると、気にならなくなる。少し錆びたくらいで壊れるものではない。安物だけど、まだまだ大丈夫。都合の良い言い訳が浮かぶ。口に出す機会のない言い訳だ。

 

何よりも一番大切なのは「自分のからだ」なのに、あえて傷つけたり蝕む行為をする。別に精神状態がどうのこうのと言いたいのではなく、やっぱり飽きてしまうからだ。少し痛めつけたところでどうってことない。若いし、まだまだ大丈夫。

 

そういえば、近所に赤いミニクーパーを恋人のように世話している男がいた。車の停まっている駐車場に面した道を通るとかならずと言っていいほどに、男はその車を磨いていた。晴れ、くもり、雨上がり。その道を通り過ぎるたびに、心がすこし赤くなるのだった。数ヶ月前に赤いミニクーパーは姿を消した。

 

外はまだ雨が降っている。確認して、窓を閉めた。